COLUMN

産業医って、うちも頼まないといけないの?
——分かれ目は「50人」です

2026年10月28日|マミ社会保険労務士事務所(北九州)

「産業医って、うちも頼まないといけないんでしょうか」

ストレスチェックのお話をしていると、必ずと言っていいほど出てくるご質問です。
お医者さんと契約するとなると、それなりの費用を想像されるのだと思います。

結論から申し上げます。分かれ目は「50人」です。

50人以上なら義務、50人未満なら努力義務

法律には、こう書かれています。

「事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(略)を行わせなければならない。」

【出典】労働安全衛生法 第13条第1項

この「政令で定める規模」が、いくつなのか。そこが肝心なところです。

「法第十三条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。」

【出典】労働安全衛生法施行令 第5条

50人以上なら、産業医を選ばなければなりません。

では50人未満はどうか。産業医については義務ではありませんが、何もしなくてよいわけでもありません。

「事業者は、前条第一項の事業場以外の事業場については、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師その他厚生労働省令で定める者に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければならない。」

【出典】労働安全衛生法 第13条の2第1項

「努めなければならない」——つまり努力義務です。

⚠️ ただし、10人以上なら「衛生推進者」は義務です

ここは落とさないでください。産業医は努力義務でも、10人以上50人未満の事業場には、別の義務があります。

「法第十二条の二の厚生労働省令で定める規模の事業場は、常時十人以上五十人未満の労働者を使用する事業場とする。」

【出典】労働安全衛生規則 第12条の2

この規模の会社は、衛生推進者(業種によっては安全衛生推進者)を選ばなければなりません(労働安全衛生法第12条の2)。
社員が10人を超えた会社で、意外と抜けているところです。

数えるのは「会社全体」ではありません

ここを間違えやすいので、ひとこと。

条文は「事業場ごとに」と書いてあります。
本社が40人、営業所が15人なら、会社全体では55人ですが、どちらの事業場も50人未満です。

逆に、本社だけで60人いれば、その本社には産業医が必要になります。

事業場の人数やらなければならないこと
10人未満産業医は努力義務
10人以上50人未満産業医は努力義務。衛生推進者の選任は義務
50人以上産業医の選任が義務。あわせて衛生管理者・衛生委員会も必要になります

⭐ 50人になった会社は、産業医だけでは終わりません。衛生管理者と衛生委員会も、同じ「常時50人以上」が分かれ目です(衛生委員会は労働安全衛生法施行令第9条)。「50人になったら産業医を探せばいい」ではなく、3つまとめてとお考えください。

50人以上になったら、14日以内です

50人以上になったときの期限も決まっています。

「産業医を選任すべき事由が発生した日から十四日以内に選任すること。」

【出典】労働安全衛生規則 第13条第1項第1号

14日(2週間)しかありません。 採用が続いて50人に届きそうな会社は、届いてから探しはじめると間に合いません。

なお「選任すべき事由が発生した日」は、50人に達した日だけではありません。前の産業医が辞めた・解任したときも、そこから14日以内です。
選任したら、遅滞なく労働基準監督署長への報告が必要です。報告は電子申請で行うのが原則です(労働安全衛生規則 第13条第2項)。産業医が辞めたときも、同じように報告が必要です(同条第5項)。

社長を産業医にできるか——ここは条件つきです

社長ご自身がお医者さんという会社から、ときどきいただくご質問です。
条文はこうなっています。

「次に掲げる者(イ及びロにあつては、事業場の運営について利害関係を有しない者を除く。)以外の者のうちから選任すること。
イ 事業者が法人の場合にあつては当該法人の代表者
ロ 事業者が法人でない場合にあつては事業を営む個人
ハ 事業場においてその事業の実施を統括管理する者」

【出典】労働安全衛生規則 第13条第1項第2号

太字のかっこ書きが大事なところです。
イ(法人の代表者)とロ(個人事業主)には「利害関係がなければ除かれない」という例外がついています。つまり、法律が一律に「社長は絶対にだめ」と書いているわけではありません。

ただし、ハ(事業の実施を統括管理する者)にはこの例外がありません。
社員数十人の会社では、社長がこのハに当たることがほとんどです。ですから——

「法律が一律に禁じている」のではなく、「多くの小さな会社では、結果として社長は選べない」。 こう受け止めていただくのが正確です。

利害関係があるかどうかの当てはめは、会社のご事情によって変わります。該当しそうな場合は、ご相談ください。

50人未満の会社には、無料の窓口があります

「努力義務といっても、お医者さんにどう頼めばいいのか分からない」。そのとおりだと思います。

50人未満の事業場のために、国が無料の窓口を用意しています。

窓口使えること費用
地域産業保健センター(通称「地さんぽ」)長時間労働者への医師による面接指導の相談/健康相談窓口/個別訪問による産業保健指導無料
福岡産業保健総合支援センター(通称「さんぽセンター」)
092-414-5264
専門スタッフによる研修・相談・訪問での支援無料

まずはここに電話をしてみる。それだけで、だいぶ景色が変わります。

体の面から見ると

産業医というと「健康診断の結果にはんこを押す人」という印象があるかもしれません。

でも条文を読むと、産業医にはもうひとつ大きな役目が与えられています。

「産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。」

【出典】労働安全衛生法 第13条第5項

会社に対してものを言える立場なのだと思います。
社員の方からは言いにくいこと——残業が続いている、夜勤が重なっている、腰を痛めている人が多い——を、外から伝えてもらえる。

私はヨガのインストラクターでもあるので、体の不調は我慢するほど言い出しにくくなる、という場面をよく見てきました。
言える相手が社内にいないとき、外にいてくれることの意味は大きいように感じます。

まとめ

- 分かれ目は50人。数えるのは会社全体ではなく事業場ごと
- 10人以上50人未満なら、産業医は努力義務でも衛生推進者の選任は義務
- 50人以上になったら14日以内に選任。衛生管理者・衛生委員会も同時に必要
- 50人未満には無料の窓口がある
- 社長を産業医にできるかは条件つき。多くの小さな会社では、結果として選べない

そして、2028年4月からはストレスチェックが50人未満の会社にも義務になります
(令和8年6月10日公布の政令第195号で、令和10年4月1日施行と定められました)。
「50人未満だから関係ない」が通じなくなるところですので、準備のことは下の記事にまとめました。

※ 本記事は2026年10月28日時点の情報に基づいています。条文は労働安全衛生法第12条の2・第13条・第13条の2、労働安全衛生法施行令第5条・第9条、労働安全衛生規則第12条の2・第13条(e-Gov法令検索)で確認しています。
※ 引用中の太字による強調は筆者によるものです。
※ 無料の窓口で受けられることは、独立行政法人労働者健康安全機構の案内によります。内容は変わることがありますので、ご利用の前にお問い合わせください。
※ 選任の手続きや、社長を産業医にできるかの個別のご判断は、会社のご事情によって変わります。無料相談でお聞かせください。

「うちは何人だから、どうなる?」も、30分の無料相談でお受けしています。
押し売りはいたしません。オンラインで完結します。

無料相談へ